名水が紡いだ食文化を堪能する三条市の旅

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旨い酒、おいしいお米の産地として名高い新潟県三条市。そのルーツをたどると、どちらも三条市が誇る“名水”に行き着きます。豊かな自然と雪解け水の恩恵を受けて育った米、名水と酒米を使い作った酒、そして湧き出る温泉と郷土の食。—そんな独自の食文化が育まれたこの土地を“見て、食べて、体験する”「三条市の農泊」をご紹介します。

目次
  1. 三条の水からはじまる物語
  2. 冬の風物詩、五十嵐川に降り立つ白鳥を観察
  3. 名水で作る料理と温泉のおもてなし
  4. まとめ

三条の水からはじまる物語

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清らかな水と緑に恵まれた自然豊かな三条市。新潟県随一の金属加工技術の集積地であり、“ものづくりの町”としても知られています。
そんな産業の発展にも欠かすことができない貴重な資源である“水”。
市内を流れる一級河川の五十嵐川(いからしがわ)や下田郷の湧水など、地域の人々は、良質な水資源を大切に守り伝え、共存してきました。
かつて自然湧水が50カ所近くもあったという水の里である「下田郷」。この地にある「北五百川(きたいもがわ)の棚田」は、新潟県の名水に指定されている「大久保の清水」と呼ばれる湧水からなる棚田です。
春はカタクリの花が咲き、夏は青々とした稲がなびき、秋は黄金色にきらきら輝き、冬は一面の雪景色。四季折々の姿を見せる美しい棚田の風景は、農林水産省が認定する「日本の棚田百選」にも選ばれています。

ポイント
  • 名水指定の湧水スポット
  • 雪解け水で育んだおいしいお米
  • 清流と酒米で仕込んだ銘酒
  • 白鳥観察と聖地でのキャンプ体験
  • 名水仕込みの郷土料理を堪能

豊かな水が湧き出る“名水の郷”

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棚田の米作りに欠かすことができない“水”。三条市下田地区は、「新潟の名水」に指定される湧水スポットが4カ所もある“名水の郷”として知られ、自然の恩恵である湧水は生活用水としても活用されています。
その一つである「大久保の清水」は「北五百川の棚田」を潤し、おいしいお米を育てるために欠かせない水源となっています。
「八木ヶ鼻湧水」は「名勝八木ヶ鼻」の西斜面から搾り出された天然湧水。「八木神社」の手水舎に引かれ、神前に進む前の清めの水となっています。
守門岳登山道ドンデ平の山峡を水源とする「城ノ腰の清水」。現在はキャンプや釣り堀などが楽しめる「吉ヶ平自然体感の郷」の中から行くことができます。
「黄金清水」は「中浦ヒメサユリ森林公園」に向かう道中にある湧き水。重倉山の地下から湧出しており、日本酒の仕込み水にも使われています。
また、秘湯で知られる「嵐渓荘」には、宿の裏手にある標高222mの机山の麓に湧く伏流水「真木の清水」が溢れ出ています。宿で飲料水や調理で使われるほか、名水巡りを目的に訪れることも可能です。

命を育む雪解け水

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お隣の魚沼市に負けず劣らずおいしいお米の名産地である三条市。米作りに“名水”の存在が重要であることがわかりましたが、水源、そして三条のお米のおいしさの秘密を紐解いていきたいと思います。
雪が多い新潟県。特に三条市下田郷は「特別豪雪地帯」に指定されるほど、雪深いエリアとして知られています。
冬に降り積もった雪は春になると溶け出し、長い年月をかけ土の中で濾過され、ミネラルを多く含んだ地下水となります。
ミネラルだけでなく微生物もたっぷりと含んだ雪解け水は、植物をおいしく成長させるだけでなく、雪解け水を飲んだ鶏は通常より多く卵を産み、牛は多く牛乳をだすなど、生物を活性化させる効果も期待でき、“命を育む水”とも呼ばれるようになりました。
春先の植物の成長の要になっている雪解け水。そのため雪国では、古くから雪解け水を利用した稲作が盛んに行われるようになりました。

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農林水産省が認定する「日本の棚田百選」に選ばれる「北五百川の棚田」。全国に誇るコシヒカリの生産地としても知られています。お米本来の自然の甘味と香りを感じられ、新潟県認証特別栽培米にもなっているこちらのお米。そのおいしさを引き出しているのが、粟ヶ岳の豊かな伏流水です。山々に降り積もった雪が地下に染み込み、長い年月を経て地表に湧き出た水で、そのまま飲めるほど澄んでいるといわれています。
また、北五百川棚田のもうひとつの魅力が、4月の雪解けとともに咲くカタクリの花。別名「Spring ephemeral(スプリング・エフェメラ)」“春の儚いもの“”春の短い命”という意味から、「春の妖精」とも呼ばれています。
東屋からは北五百川集落を見下ろすことができ、「北五百川の棚田」と「大久保の清水」をつなぐ約1.5kmの遊歩道もあるので、日本の原風景を楽しみながら周辺の散策も楽しめます。また、景勝地「八木ヶ鼻」をはじめ、高城城址などへも行けるブナの道もあり、毎年5月中旬~下旬頃には、三条の市花であるヒメサユリの群生を見ることもできます。

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その土地の“食”を楽しむのも農泊の魅力。自然の恵みをたっぷり蓄えた “お米”の味は、ぜひ味わっていただきたい食の一つです。
米作りには、気候、水、土、土地といった4つの条件が必要不可欠です。特に寒暖差のある地域では、お米がデンプンを蓄え、より粒が大きく、甘くもっちりとした食感に育つといわれています。
この条件をすべて備えたうえに、“雪解け水”という恩恵を存分に受け育つ三条市のお米。地域の人々が自然を守り、共存してきたからこその実りは、自然からのギフトでもあるといえるでしょう。

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“名水あるところに銘酒あり”。お米の次にぜひ体感してもらいたいのが“お酒”です。
酒造の数日本一を誇る新潟県。土壌、気候、そして水。おいしい米造りの環境が整っていることで、新潟の酒造り文化は発展したといわれています。
三条市の清らかな水と良質なお米を使い、おいしい日本酒を作り続けているのが「福顔酒造」。明治30年創業、現在5代目の小林章さんが代表を務める造り酒屋です。
日本酒のおいしさが決まる仕込み水。こちらでは、清流五十嵐川の超軟水を緩速濾過にて浄化。薬品を使わず丁寧に濾過するため、自然に近いおいしさを保つことができるそう。
そして、水と共に重要なのが良質な酒米です。「酒米の質によって、品質も変わってくるので、水だけでなく酒米にもこだわっていますよ」と小林さん。こちらでは、新潟産のブランド米を契約農家が酒米用に栽培。「五百万石」、「越淡麗」、そして「越神楽」に兵庫の「山田錦」をかけ合わせ、銘柄ごとに使いわけています。
水と米にこだわり作り続け125年。絶やしてはならない地域の魅力を今も守り伝え、さらなる進化を続けています。

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看板銘柄は、五十嵐川の伏流水で仕込んだ「五十嵐川」と、屋号と同じ名前の「福顔」。ほかにもウイスキー樽で貯蔵した日本酒や梅酒なども揃います。試飲も可

冬の風物詩、五十嵐川に降り立つ白鳥を観察

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「福顔酒造」の日本酒造りの要となっている五十嵐川。アユやサケ、イワナやヤマメなどが生息する一級河川です。11月下旬~3月中旬にかけて、白鳥が飛来するスポットとしても知られています。1986年にはじめてこの地に飛来して以来、年々数を増し、一時期には600羽もの白鳥がこの地に降り立ったこともあったそうです。
五十嵐川に隣接した「白鳥の郷公苑 観察舎」は、飛来した白鳥をゆっくり観察できるスポット。室内から望遠鏡で観察したり、川に降りて間近で観察したり、思い思いに楽しめます。

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川に飛んで来るのは珍しいそうで、五十嵐川がいかに豊かな清流であるのか、白鳥たちの姿が物語っているといえるでしょう

キャンパーの聖地でアウトドア体験

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たくさんの魚が生息する五十嵐川は渓流釣りのメッカでもあります。上流ではヤマメ、イワナ、下流ではニジマスと、バリエーション豊かな釣り場環境が整っており、フライフィッシングのフィールドとしても注目が高まっています。
ほかにも、世界的なアウトドアブランドが集まる“キャンパーの聖地”と呼ばれる燕三条だけに、オールシーズン楽しめるキャンプ場など、アウトドアに最適な環境が充実しています。
「CAPTAIN STAG」が運営する「八木ケ鼻オートキャンプ場」は、新潟県景勝100選に選ばれた八木ケ鼻を間近で望める人気のキャンプ場。オートキャンプサイトとコテージがそろい、本格的なキャンプを楽しみたい人から、小さな子ども連れまで幅広く楽しめます。日帰り温泉「いい湯らてい」まで徒歩約1分の立地も魅力。サイトの横には小川が流れ、気軽に川遊びやフライフィッシングも楽しめます。

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雄大な自然の中で食べる料理は特別においしく感じます。それが三条産の食材であればなお格別!

名水で作る料理と温泉のおもてなし

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名水が紡ぐ三条の豊かな食文化。受け継がれてきたガストロノミーを堪能できるのが、越後長野温泉に佇む「嵐渓荘」です。
文化庁の登録有形文化財指定、渓流沿いに建つ静かな一軒宿で、大正末期、嵐渓荘創業者が一人でやぐらを建て、温泉を掘削したのが始まりといわれています。
宿の裏手には山麓から流れる天然の湧水「真木の清水」が溢れ出ています。
「嵐渓荘は水道が通っていないので、水はすべて“真木の清水”を使っています。調理はもちろん、飲料水、トイレの水までも湧水です」と若女将。
ミネラル分を多く含んだ体に優しい名水は、裏手の山で採れる山菜にはじまり、野菜、お米、そして川魚まで。地でとれるすべての食材を滋味豊かな逸品へと生まれ変わらせてくれます。

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歴史を重ねた趣ある建物、心身リフレッシュできる温泉など、多くの魅力がある嵐渓荘。その中でもゲストのリピート理由で一番多いのが、滋味溢れる料理のおもてなしです。天然の湧水で調理した「山里会席」は、山の恵みをふんだんに味わえるフルコース。ぜんまいの一本煮やまたたび、湧水で育ったみずみずしい鯉のあらいなど、一品ひと品、丁寧に調理されたここならではの味を堪能できます。朝食は自家源泉で炊いた温泉粥を提供。温泉のミネラル分と濃厚な塩分が合わさり、まるで昆布ダシのような味わいに。胃がすっきりと目覚め、名水と温泉でデトックス効果も得られそうです。

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渓流と鳥の声、自然の音色が心地よい貸し切り露天風呂は、「石湯」と「深湯」がそろい、無料で貸し切り可能。効能豊かな温泉は無色透明でありながらも、成分は溶存物質15,670mg/kgと濃厚です。

名水が紡いだ食文化を五感で堪能する「三条」の農泊旅。厳しい冬を越え、雪解け水が田畑を潤し、おいしいお米やお酒となって私たちを満たしてくれます。遠くシベリアへ帰っていく白鳥観察や聖地でのキャンプ体験などアクティビティも楽しめるのもここならではです。